研究ノート「中央アジア水セキュリティへの日本の関与 JICA「水管理改善プロジェクト」からの一考察」

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  1.中央アジアの水資源問題の概要 中央アジアにおける水資源問題について簡単に説明するなら、以下の通りになる。すなわち、アラル海にそそぐ河川、アムダリア川とシルダリア川の上流国と下流国が主なアクターであり、自国領内に豊富に存在する水源を利用して水力発電を行いたい上流国(タジキスタン、クルグズスタン 2 )と、輸出作物である綿花や食糧自給のために重要な小麦を栽培するための灌漑用水を必要とする下流国(ウズベキスタンなど)、との間の対立である。特に近年は中央アジアにおける水質源問題について語られる際このような国家間対立に注目が集まるようになった。旧ソ連崩壊に伴う中央アジア独立当初の 90 年代は、地域内の国家間対立という構図よりもむしろ、地域内で協力して水資源の共同管理を図る動きが強かった。当事国である中央アジア諸国も、 47 キーワード :水資源問題、国際協力、水利用者組合、草の根の援助活動、水セキュリティ本稿では、ウズベキスタンにおいて国際協力機構(  JICA )が実施している「水管理改善プロジェクト」を分析することを通じて、中央アジアの水資源問題に対しての第三者の関与のありかたについて事例研究を行うことを試みる。筆者は 2013 年3月に、ウズベキスタンにおいて上記プロジェクトの現地調査を実施した。  JICA のプロジェクトスタッフに同行し、同国の農村部において水資源管理を担っている住民組織、水利用者組合( WUA )において実施された、 WUA から水の配分を受けている農民らを対象とした意見聴取会に同席し、情報収集を行った。この意見聴取会では、農民たちから、 WUA に対して評価する点と評価しない点、また、評価しない点については、農民自身が考える解決法について提示してもらい、農民たちが WUA や、より自分たちの生活に密着した形での水資源問題について、どのような意見、認識を持っているのかについて、調査を行った。本稿では、 WUA の概要を踏まえたうえで、この  JICA のプロジェクトの概要を述べる。そして、中央アジアの水セキュリティに対する第三者の関与という文脈の中で、このプロジェクトの役割、意味について説明を行う。資料としては、この 2013 年の調査の他、  JICA 図書館 1 から公開されている報告書、および、タシケント、テヘランの  JICA 事務所におけるインタビュー内容を用いる。 中央アジア水セキュリティへの日本の関与 ─  JICA 「水管理改善プロジェクト」からの一考察─ 齋 藤 竜 太 筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程国際日本研究専攻 研究ノート 1 http://libopac.jica.go.jp/ 2 キルギスのこと。ここではより現地の発音に近い「クルグズスタン」を用いる。  アラル海水系流域国の間で緊張が発生する可能性については自覚しており、独立後の早い時期から地域内で国家間協議を重ね、効率的な水利用や、近隣国に影響を与えるような水利用を避けることなどについての合意 3 を交わしている( Dukhovny 2011:216-217 )。独立直後の中央アジアにおける水資源管理では、将来の人口増も見越して食糧の自給を目指す動きが強かった( Madramootoo and Dukhovny 2008:3 )。農業部門が中央アジア諸国の経済に占めるシェアが高く、農村の不安定化は、ひいては国家全体、ないしは地域全体の安定に影響を及ぼすという指摘もある( Qi and Evered 2008:11 )。すなわち、中央アジアの水資源管理においては、当初、農村が、水セキュリティの対象として大きな位置を占めていたことが分かる。しかしその後、中央アジアにおける水資源は、新生独立国家による、水量をめぐる国家間対立という色彩を強くしていく。河川の上流国であるタジキスタンは、水力発電所建設を推進している。その背景には独立後のナショナリズムの台頭、河川の上流国(クルグズスタンおよびタジキスタン)の経済的要因による水力発電への傾斜、さらには隣国アフガニスタンにおける電力需要の増大と、アメリカやロシアなどの大国、国際機関といった、国際社会を巻き込んだ電力網建設構想があった(ダダバエフ 2008:29-31; 稲垣 2012:61-62 、 71-76 )。下流国ウズベキスタンは、このような上流国の動きに対して、半ば実力行使を伴う強い反発を示している 4 。 2.中央アジア水資源問題をめぐる先行研究の流れと、その中での本研究の位置づけ 独立当初、中央アジアの水資源問題に関しては、独立当初からの同地域内における水資源の偏在についての指摘や、水利科学での定量的な研究が行われている( Qi and Evered 2008;Madramootoo and Dukhovny 2008 )。これらにおいても重視されているのは、社会経済的な安定であり、農業に対する影響への関心が払われている。しかし、水の偏在が、上流国と下流国との間の潜在的紛争要因となる、という指摘も独立当初からなされてきた( Luong and Weinthal 2002:67-68 )。特に近年、上記のような背景から、国家間の対立、紛争に焦点を当てた研究が多く出されている(ダダバエフ 2008 )。また、隣接するアフガニスタン情勢と関連して、タジキスタンにおける水力発電所建設も注目を浴びている。アフガニスタンとともに、ロシアやパキスタンを巻き込んでの電力網形成に、アジア開発銀行や世界銀行などが出資しており、外部アクターの参与、ひいてはそれによる中央アジア水資源問題の国際化についての研究も見られる(稲垣 2012 )。このように、中央アジアの水資源問題において、独立当初は農村部の安定を通じた地域全体の安定が重視されていたのに対して、その後、国家の利益、あるいは外交上の戦略が強調されるよ 筑波大学大学院人文社会科学研究科『国際日本研究』 第6号( 2014 年) 48 3 具体的な合意内容については、 <jnfnehjdf 2011%417-418 、 456-460 を参照。4 ウズベキスタンはクルグズスタン、タジキスタンに対して、天然ガスの供給の停止を行ったり、特にタジキスタンに対しては、ロシアからの水力発電所建設のための資材を運ぶ鉄道を止めたりしている。また、ウズベキスタンのカリモフ大統領は、 2012 年9月、カザフスタンのナザルバエフ大統領との会談の際、中央アジアの水問題について、はっきりと「戦争につながる可能性がある」と、それまでに見られない踏み込んだ表現を用いた。 http://uk.reuters.com/article/2012/09/07/uk-centralasia-water-idUKBRE8860W420120907 (最終閲覧日、 2013 年 11 月5日)。  うになり、草の根レベルからより政府レベルへと、水資源をめぐる議論の対象が移行していったことがわかる。すなわち、水セキュリティという観点からすると、よりハイレベルへと、セキュリティの対象が変化していったのである。さらには、先述したように、タジキスタンの水力発電網整備への外部アクターの参与など、中央アジアの水資源問題が、地域内の問題にとどまらない意味を持ちつつあることも、注目に値する。しかし筆者は、特に日本が水資源問題という、中央アジア地域にとどまらない重要性を持つテーマに対し、いかに関与しうるか、という問題意識から、大国のゲームとなりつつある、アフガニスタン情勢を巻き込むようなハイレベルなアプローチよりもむしろ、草の根のレベルへのアプローチを試みる。そしてこれは、水資源問題が、外交戦略に利用される前の状態だったころに、当事者、当事国間に共有されていた問題意識への回帰でもある。くわえて、第三者( Third Party )がいかに中央アジアの水資源問題に関与するかについて、現在国際機関などによる、ハイレベルな関与が注目される中、より草の根の関与の仕方の事例提示を図ることも目的とする。 3.水利用者組合の概要 研究対象とする  JICA の「水管理改善プロジェクト」が対象とするのは、村落レベルで末端水路の維持管理にあたっている、水利用者組合( WUA, Water User ’ s Association 、露語:  FccjwbfwbqDjljgjlm3jdfntktq^FDG )である。 WUA は、ウズベキスタンの場合、全国に約 1700 ( 2009 年)ある 5 。水路を利用する農民が組合員となっており、農民から徴収する組合費によって運営されている。ウズベキスタンにおける最初の水利用者組合は、 2000 年に、中央アジア灌漑科学研究所( SANIIRI )によって 6 、ソ連崩壊後のウズベキスタンにおいて実施された土地改革に伴う、水利用の無秩序化に対応するため設立された( Zavgorodnyaya 2006:80) 。特に、ウズベキスタン西部、ホレズム州においてパイロット WUA が数多く設置された。 2000 年および 2001 年にウズベキスタンが干ばつに見舞われた際、パイロット WUA が高いパフォーマンスを示したため、その後普及が進んだ。ウズベキスタンでは、旧ソ連時代の集団農場であるコルホーズやソフホーズ解体後に協同農場が設置されたが、 2005 年から 2006 年にはさらに国と農家の間の土地の賃借契約に基づく農業企業体への再編が進み、かつての集団農場、協同農場の領域内で水管理を行うために WUA が設置された 7 。 WUA の設立をめぐっては、 SANIIRI による主導のほかに、ヨーロッパ独立国家共同体技術支援( TACIS )などの海外ドナーの援助を受けた、あるいは、大統領による強いリーダーシップが働いた、など、様々な要因が設立の背景に存在している( Bolding 2004:13 )。 WUA は建前上、住民による非政府組織( NGO )して設立された。しかしその後、ウズベキスタン政府は、 2002 年1月8日の大臣会議令において、1、再編成された農業企業体の領域における WUA の設置手続きについて 齋藤竜太 中央アジア水セキュリティへの日本の関与 49 5  JICA 資料より(タシケント、「水管理改善プロジェクト」本部より入手)。6 同上。7  Veldwisch 2008:151-154.  2、 WUA の組織管理について3、水利用者の統合と WUA の設置に関する基準合意4、 WUA 規定の基準5、フェルメール 8 と WUA の間の、責任ある水配分と業務の基準に関する合意 9 に関する布告をだし、公式には、農民による非政府組織である WUA を、より強い政府の統制下に置こうとするようになる 10 。しかし、農民の中には、「これまで無料で利用できた水に、なぜお金を払うのか」といって、組合費の支払いを拒んだり 11 、水路の維持を自分で行おうとしたりする人が多い 12 。また、 WUA の会合への住民の参画も活発ではなく、 Zavgorodnyaya は、 WUA が政府の統治ヒエラルキー構造の一部となっていると指摘している (2006:79) 。また、 WUA はむしろ、脱集団化後の農村における、国家と農村の橋渡し役となっているとも指摘している( ibid:16 )。 4.「水管理改善プロジェクト」 「水管理改善プロジェクト」は、 2007 年のウズベキスタン政府からの要請に基づき、 WUA による灌漑用水管理の改善を目的として、  JICA が実施しているものである。日本の農林水産省職員や開発コンサルタントらからなるプロジェクト専門家により、プロジェクトのカウンターパートであり、また WUA を監督する立場にある BISM ( Basin Irrigation System Management 、露語: <fcctqyyjt Eghfdktybt Bhhbufwbjyyjq Cbcntvs <EBC 、流域灌漑システム管理局)、および、 ISD ( Irrigation System Department 、露語: Eghfdktybt Bhhbufwbjyyjq CbcntvsEBC 、灌漑システム管理事務所)の職員に対する支援を行うものである。この二つは、用水路の運営維持管理、および WUA に対する配水および技術支援を行っている 13 。この二つの組織はいずれも農業水資源省の、州レベルの下部組織であり、郡レベルの地区事務所( Division office )を通じて、 WUA を指揮監督する。このプロジェクトは、 BISM 、及び、 ISD による、 WUA への支援体制の強化を通じて、 WUA による灌漑用水管理を改善することを目的とするものである。いうなればこのプロジェクトは、 WUA という、草の根の水管理において重要な役割を果たしている組織のリーダーにふさわしい人材を育てる人材を育てるプロジェクト 14 である。活動内容は訓練、指導に重点が置かれている。  Journal of International and Advanced Japanese Studies University of Tsukuba Volume 6 / January 2014 50 8  Fermer 。旧ソ連時代の集団農場が、独立後段階的に、農民主体の民営組織に改編されたもの。実際には、様々な形で政府の統制を受けている( Trevisani 2012 )。9  UNDP 2007: 66.10 Ibid.11 JICA プロジェクト職員の話では、経済的に厳しいから、という理由で拒む人もいるという。また、「イスラーム法では水は無料財となっている」と主張して、支払いを拒む人もいるという( Veldwisch 2008:145 )。 12  しかし実際には、多くの水路や灌漑施設は老朽化が進んでおり、維持・修復に関する技術や、それを備えた人材が必要となっている( Wegerich 2000:5 )。 13 JICA 資料においては、両者の職域境界が不明瞭であることへの指摘がある。 14  「水管理改善プロジェクト」本部における、スタッフへのインタビューより。  プロジェクトのパイロット WUA は、シルダリア川流域沿いの、シルダリア州、ジザク州、及び両州と同一の流域系統であるチルチック川流域に位置するタシケント州に位置している 15 。ウズベキスタンでは旧ソ連崩壊に伴う独立以降、インフラの老朽化が問題となっている。農村部における灌漑設備も例外ではなく、水道橋の崩壊が起こるなど、状況は深刻である。水資源の確保、管理、供給というシステムにおいて末端部に位置している農村部における、漏水などの水の無駄の削減が課題となっている。また、ウズベキスタンに限らず、 WUA の技術力向上や経済的支援の必要性が、中央アジア地域内の水資源管理組織である Interstates Commission for WaterCoordination in central Asia ( ICWC 、露語: Vt;ujlfhcndtyyfz RjjlbyfwbjyyfzDjlj[jpzqcndtyyfz Rjvbccbz Wtynhfkmyjq Fpbb^ VRDR )において、しばしば議論の対象となっている。  JICA は、 2009 年3∼4月に詳細計画策定調査を実施し、 09 年8月に RD ( Record of Discussion 、討議議事録)に署名、 2009 年 11 月から 2013 年5月までの3年半の計画でプロジェクトを開始したが、その後 2013 年 12 月まで延長された。本プロジェクトは、現在、3名の長期専門家 16 を派遣中であり、3州の BISM と ISD 職員や対象6パイロット WUA の職員らを対象に、組合組織の強化や、配水や施設維持管理に関する技術の研修を行っている。 BISM および ISD の支援により、排水計画立案及び施設操作、灌漑・排水施設の維持管理に関わるパイロット WUA スタッフの能力向上を目指すものである 17 。 5. 2013 年3月 12 日の意見聴取会 「水管理改善プロジェクト」のパイロット WUA の組合員である農民に対して、 WUA について、農民の視点から、そのメリットと問題点、そして提起しうる解決方法について意見を出し合う意見聴取会が、 2013 年3月 12 日、タシケント州、ユーコリ・チェルチンスキー地区( rayon )にある、 WUA 本部で行われた。この地区は、タシケント市中心部から車で1時間程度の場所に位置しており、人口は 2243 人(うち男性人口は 1075 人、女性が 1168 人)、世帯数は 494 である。タジク人やウズベク人も村に居住しているが、村の人口の大半はカザフ人 18 であり、 WUA の本部がある建物には、ウズベク語に加え、カザフ語のポスターが貼ってあった。この意見聴取会は、この「水管理改善プロジェクト」において定期的に行われているものではなく、組合員である農民に直に話を聞くのは、この日に実施されたものが初めてであるという。 Ryuta Saito, Japan’s Contribution toward Water Security in Central Asia – Case Study 51 15  このパイロット WUA は、タシケントのプロジェクト本部からのアクセスのしやすさを考慮して、ウズベキスタン農業水資源省が選定した。 16  現地事務所で得た資料には、「チーフアドバイザー:水利組合強化、灌漑施設維持管理、業務調整/研修計画」とある。 17  水管理改善プロジェクト事務所で得た  JICA 資料より。 18  この意見聴取会では、 WUA の組合員である農民との親睦を深めることにより、農民から率直な意見が得られやすくするようにするため、意見聴取に先立って、組合員の名前や好きな食べ物、趣味は何かを、 WUA 側と  JICA 側が相互に聞く時間を  JICA が設けた。そこで、組合員からは、「ベシュバルマック(遊牧民だったカザフ人、クルグス人独特の、羊肉が入った麺料理)」を好きな食べ物にあげ、趣味は「乗馬」である、と答える人が多かった。また、この地区には、成人した息子に馬を送る風習があり、これも遊牧民族であるカザフ人の特色である。
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